鬼滅の刃には大正時代という舞台背景から兄弟の絆が描かれています。
竈門炭治郎たちと同じ時期に最終選別を突破した不死川玄弥もまた、風柱・不死川実弥を兄に持つ兄弟であり、劇中では二人の関係が徐々に深掘りされていきました。
今回は、不死川兄弟についてご紹介したいと思います。
この記事で紹介する内容は?
- 不死川兄弟の過去・生い立ち
- 不死川兄弟の離別
- 不死川玄弥の葛藤
- 不死川実弥の葛藤
- 不死川玄弥の死亡
- 不死川実弥のその後
不死川兄弟の過去・生い立ちは?
引用元:吾峠呼世晴『鬼滅の刃』 出版:集英社
不死川兄弟の過去が描かれたのは単行本13巻115話『柱に』。
半天狗の分裂体『喜怒哀楽の鬼』を相手に炭治郎・禰豆子・玄弥の三名が交戦し、半天狗の本体『怯の鬼』を玄弥が見つけて頸を斬ろうとしたところ硬くて日輪刀が破損。その直後、玄弥の背後に迫っていた積怒が錫杖の尖端を向けて玄弥の頸を貫こうとしていました。
その最中、玄弥は走馬灯のように過去を思い出すのです。
不死川兄弟の過去と悲劇『母と弟妹の死亡』
実弥と玄弥にまだあどけなさが残る数年前、不死川家は8人家族でした。
家族構成は以下の通り。
- 父:恭梧(※故人)
- 母:志津
- 長男:実弥
- 次男:玄弥
- 就也
- 弘
- こと
- 貞子
- 寿美
恭梧は図体が大きいにも関わらず家族に暴力を振るうろくでもない父親でしたが、人に恨まれた挙句刺されて亡くなっており、不死川兄弟は自業自得だと述べています。
一方で、小柄な志津は恭梧の暴力に怯むこともなく子供たちを庇い立てた母親であり、恭梧の死後も女手一つ朝から晩まで働いて子供たちを育てた立派な母でした。
しかし、ある晩のこと、志津の帰りが遅いことから子供たちが寝付けずに心配していると、長男の実弥が夜中にも関わらず志津を探しに外へ。玄弥は実弥に代わり、弟妹たちの面倒を見ていました。
すると玄関戸を何者かが叩く音が鳴ると、弟妹たちは志津が帰ってきたと思い駆け寄ります。しかし、玄弥は咄嗟に志津ではない可能性を考慮して「待て!開けるな!母ちゃんじゃないかもしれな…」と引き留めようと声をあげました。
玄弥が弟妹たちを引き止めようとした刹那、扉から獣のような生物が家の中に飛び込んでくると同時に志津を迎えようと玄関戸に駆け寄っていた弘・こと・貞子・寿美の四人が体を切り裂かれて殺害されるのです。
また、玄弥は就也を抱きかかえて寝かしつけようとしていたところを侵入者の攻撃に遭い顔に傷を負うと、抱えていた就也を守り切れずに殺害されてしまうのです。
電灯が破壊されると暗室となり、飛び込んできた生き物の正体ははっきり見えません。獣か野犬、あるいは狼のような鋭い爪を持つ生物に玄弥は殺される寸前でしたが、母を探しに出ていた実弥がソレに体当たりすると「玄弥、逃げろ!!」と叫びながら一緒に二階から転落。
残された玄弥は弟妹の亡骸を前にまだ生きているかもしれないと逸り医者を探しに家を出ると、空が段々と白んできていました。そして、道を走っていると見えてきたのは鉈を持って佇む実弥の姿。
返り血に染まった実弥が呆然と見下ろす足元には血だらけで横たわり志津の亡骸があったのです。
玄弥はすぐに倒れているのが母親だと察すると弟妹の死に続き最愛の母の死を受けて、志津の上体を抱き起しながら母の名を呼びながら号泣。
そして「何でだよ!!何でだよ!!何で母ちゃんを殺したんだよ!!うわあああ、人殺し!!人殺しーーーーっ!!」と、家族を守るために戦った実弥を責め立てたのでした。
不死川兄弟の離別
弟妹と母の死後、実弥は鬼殺隊や日輪刀の存在を知らない頃、山ほどの武器を携えて鬼を殺して回っていました。
志津と取っ組み合いになっている最中、実弥が出血した途端に動きが鈍くなったことから違和感を覚えており、鬼を狩っていく過程で自分の血が『稀血』と呼ばれる特別な血であることに気付くと、鬼を倒す際には自ら体を傷つけて出血し鬼を酔わせてから捕縛、そして太陽に晒して殺すという手段。
そして、粂野匡近と出会い育手を紹介されると鬼殺隊へ入隊します。
そのため、おそらく実弥は母を殺した直後か、しばらくしてから玄弥の元を離れてしまったのかもしれません。
また、実弥は玄弥と離れてから鬼殺隊に入るまで治安の悪いところを転々としていたため口調が変わったそうです。口調の荒々しさはそういった環境で生き抜くために周囲を威嚇しているとのこと。
不死川玄弥の葛藤『兄への思い』
玄弥の後悔はあの時実弥に放った言葉でした。
あの時の玄弥は、弟妹たちが冷たくなって返事をしなくなったこと、狼だと思ったものが鬼になった志津であったことを受けて混乱していたのです。
母が子供たちを殺し、兄が最愛の母を殺す。
その現実を受け入れる前に混乱してしまい、玄弥は実弥に酷い言葉を放ってしまいました。
しかし、いざ実弥の立場で考えてみれば、家族を守るために戦い殺したその相手が最も守りたかった最愛の母であると気づいたときの実弥の気持ちはどんなものだったのか。母を手に掛けたと気づき打ちのめされている時に必死で守った弟から罵倒されてどんな気持ちだったか。
玄弥は実弥を罵倒してしまったことを謝りたくて鬼殺隊に入隊しましたが、実弥からずっと拒絶され続けており、入隊後も風柱の兄には面会できない状況が続いていました。
そのため、呼吸も使えない玄弥は早く功績をあげて柱になろうと気ばかりが逸る中、鬼との戦いの最中に自分に『鬼喰い』の才能があることに気付きます。
刀鍛冶の里編後に蝶屋敷で静養している際には、三人娘のすみの名前から亡くなった妹の『寿美』を重ねて見ており、風柱の第一印象が怖いと述べるすみに対して実弥が本当は優しい人間であることを説明。
その真意は妹と同じ名前を持つすみにだけは兄を誤解していてほしくないというもので、玄弥はすみに過去を話しています。
不死川実弥の葛藤『弟への思い』
玄弥と離れて鬼殺隊に入った実弥ですが、粂野匡近と出会い風の呼吸の育手を紹介されてからは鬼殺隊として鬼狩りを続けていました。
そして、任務先で下弦の壱『姑獲鳥』と邂逅すると激闘の末に十二鬼月の一つを討伐することに成功しました。しかし、それは粂野匡近や同期の浦賀の命と引き換えでした。
この世の不条理を垣間見ながらも下弦の壱を討伐した功績で柱になった実弥は、柱合会議にて産屋敷輝哉から粂野匡近の遺書を読ませてもらいます。
「大切な人が笑顔で天寿を全うするその日まで幸せに暮らせるよう、決してその命が理不尽に脅かされることがないよう願う。例えその時自分が生きてその人の傍らにいられなくとも、生きていて欲しい。生き抜いて欲しい」
粂野匡近の遺書を読み涙する実弥は『例えその時自分が生きてその人の傍らにいられなくとも、生きていて欲しい』という部分で玄弥を想起しています。
玄弥は実弥の初めての弟であり、まだ赤子だった玄弥の手を握った時に「この小さな弟をどんな時でも守ってやろうと」と感じていました。そのため、玄弥とともに母や弟たちを守ろうと誓い合った時も、実弥にとっては玄弥も小さな弟の一人で守りたい対象でした。
故に、玄弥が『人殺し』と罵ったところで実弥は傷ついておらず、玄弥が生きて幸せでいてくれることが唯一の実弥の幸福であり、願いであり、生きる意味だったと独白。
そのため、玄弥が自分に謝罪するために鬼殺隊に入ったと知った時は、どんなに恨まれようと鬼狩りを辞めさせるために突き放そうと決めました。
実弥が玄弥の鬼殺隊入りを認めないのは、粂野匡近のように本来の玄弥が優しい性格であるのを知っているからであり、実弥は善良な人間から死んでいくこの世の不条理を嫌というほど知っているからです。
玄弥が鬼殺隊に入れば粂野匡近のように誰かを庇って死ぬ姿が目に見えていたため、優しさが玄弥の命を奪う前に鬼殺隊から遠ざけようとしていました。
なお、刀鍛冶の里編で玄弥が負傷した際には、蝶屋敷に様子を見に行ったものの玄弥に会うことはせず帰っています。
不死川玄弥の死亡『実弥の涙』
引用元:吾峠呼世晴『鬼滅の刃』 出版:集英社
玄弥の死亡が描かれたのは単行本21巻179話『兄を想い弟を想い』。
上弦の壱『黒死牟』と邂逅した時透無一郎、不死川玄弥、不死川実弥、悲鳴嶼行冥の四人は、死闘の末に黒死牟を討伐することができました。しかし、それには無一郎と玄弥の犠牲を伴いました。
玄弥は実弥を死なせないために黒死牟の肉の一部(髪、刀の破片)を取り込むことで鬼化し血鬼術を発現。黒死牟の動きを封じ込める活躍をしましたが、黒死牟に体を縦真っ二つに斬り裂かれてしまいじわじわと命が尽きようとしていました。
すぐに死亡しないのは鬼を取り込んだ影響ですが、悲鳴嶼は玄弥の最後にと気絶した実弥を側に置いて無一郎の供養に移ります。
そして、実弥が目を覚ますと玄弥の灰化が既に始まっており徐々に体が崩れているところでした。実弥は錯乱したように声をあげると「大丈夫だ何とかしてやる、兄ちゃんがどうにかしてやる」と涙ながらに消えゆく玄弥の体に触れるのです。
対して、玄弥はか細い声で「あの…時…兄ちゃんを…責めて…ごめん…」とこれまで謝罪したかった言葉を振り絞ります。何も迷惑をかけられていない、ただ、死ぬなと実弥が叫ぶと、玄弥は「守って…くれて…あり…がとう」と涙を零しながら思いの丈を伝えました。
そんな玄弥を前に実弥は「守れてねえだろうが!!馬鹿野郎、ああああクソオオオ!!」とどうしようもない状況に打ちひしがれます。
玄弥の崩壊が顔の辺りまで進行すると、玄弥はこれまで実弥が自分を守ろうとしてくれていたように自分もまた実弥を守りたかったと述べ、兄弟だから同じ気持ちであった旨を伝えました。
そして、つらい思いをたくさんしてきた兄ちゃんには幸せになって欲しい、死なないで欲しい、俺の兄ちゃんはこの世で一番優しい人だから──と述べると「あり…が…とう…兄…ちゃん…」と最後に感謝を伝えました。
どうか弟を連れて行かないでくれと神様に頼み込む実弥でしたが、実弥が玄弥に覆いかぶさると無常にも玄弥は隊服のみを残して完全に消滅。
実弥は腕の中で灰となって散っていく玄弥を見ながら「あああああ玄弥!!ああっうああっ玄弥ーーーーっ!!!」と残った隊服を抱えて泣き崩れるのでした。
不死川実弥のその後『一人だけ生存』
産屋敷無惨を討伐した単行本23巻200話『勝利の代償』。
無惨に致命傷を負わされた柱たちが続々と亡くなっていく最中、実弥も重体だったため今際の際に立たされていました。
暗闇にポツンと佇む実弥の視線の先には、花畑の中、亡くなった弟妹たちと再会している玄弥の姿がありました。しかし、そこには志津の姿はありません。
実弥は暗闇の方に向かって「お袋?何で向こうに行かねえんだ。お袋!そこにいるんだろ?」と声を掛けると、志津の声で私はそっちに行けないと返答が。
実弥は暗闇の中から志津の手を掴むと一緒に行こうと引っ張ります。
しかし、志津は手で顔を覆ったまま「駄目なのよ…みんなと同じ所へは行けんのよ…我が子を手にかけて天国へは…」と、かつて鬼となり子供たちを殺めた罪の大きさから玄弥たちの元へは行けないと拒絶するのでした。
そんな志津の悲痛な思いを受けて、実弥は志津とともに地獄へ堕ちることを決意。あまり早く天国に行ったら玄弥たちが悲しむと言って、志津に笑いかけると「お袋背負って地獄を歩くよ」と悲しみに耽る母の手を握り締めます。
が、二人の手を引き剥がすように現れたのは随分と前に亡くなった恭梧でした。
恭梧は志津から実弥を引き剥がすとそのまま暗闇へと突き飛ばすのです。不意に現れた恭梧に驚きながらも「糞野郎、お袋を放せ!!」と叫びながら落下する実弥。
そんな実弥を心配するように志津が涙ながらに手を伸ばすも、実弥はどんどんと暗闇の底へと落ちていくのです。そして、恭梧が「お前はまだあっちにもこっちにも来れねえよ。俺の息子だってことに感謝しろ、特別頑丈な体だ」と述べると、実弥は今際の際から目を覚まし生還するのでした。
また、恭梧は「志津は俺と来るんだ」と述べていますが、もしかしたら生前のことを反省して実弥の代わりに現れたのかもしれませんね。
不死川実弥の子孫『玄弥の転生と再会』
鬼のいなくなった大正時代から物語が現代へと移行した最終話205話『幾星霜を煌めく命』。
生き残ったキャラクターの子孫と、鬼殺隊や鬼の被害に遭って亡くなったキャラクターたちの転生が登場するこの回、不死川兄弟の子孫と転生キャラクターが登場しています。
- 実弥の子孫:不死川実弘
- 玄弥の転生:名前不明
二人とも警察官であり、実弘は先輩、玄弥の転生は実弘の後輩として登場。
ナイフを振り回していた男を二人で傷だらけになりながら逮捕して以来、兄弟のように仲良くなったそうです。そのため、二人の顔には実弥と玄弥と同じ位置に傷が残っています。
痣者は25歳を迎える前に亡くなると言われていますが、実弥に子孫が居るということは残された人生で結婚し子孫を残したようですね。
短い余生ですが実弥は幸せに過ごせたことが分かります。実弥の幸せは粂野匡近と玄弥の願いでもあるので、実弥は報われて本当に良かったですね。
まとめ
- 不死川家は9人家族
- 父は故人、5人の弟妹は鬼化した母に殺害され、鬼化した母は実弥が殺害
- 実弥が母を殺害したことで玄弥が『人殺し』と罵倒
- 母の死後、実弥は鬼を狩るために玄弥と離れて暮らす
- 実弥は粂野匡近と出会い鬼殺隊に入ると下弦の壱『姑獲鳥』を討伐し風柱に昇格するが、粂野匡近や同期の死から善良な人間から死んでいくこの世の不条理を憎む
- 玄弥は実弥に酷いことを言ったことを謝りたくて鬼殺隊に入隊するが、弟を危険な鬼狩りに置いておきたくなくて実弥は玄弥を拒絶し続けた
- 玄弥は上弦の壱『黒死牟』との戦いで死亡するが、死ぬ間際に実弥と和解し謝罪と感謝の言葉を伝えられた
- 実弥は鬼舞辻無惨との戦いで今際の際に立たされるが、天国の兄弟や地獄に向かう母と父と一緒に行けずに、生還
- 実弥は短い余命で結婚し子孫を残した
- 未来編では実弥の子孫と玄弥の転生が警察官となっており、先輩後輩ながら兄弟のように仲良し
不死川兄弟の回想や死亡シーンは作中でも屈指の涙腺崩壊シーンでしたが、二人の最後は何度見ても泣きそうになりますね。
お互いに兄弟のことを守るために動いているだけですが、母の死亡後からは関係にヒビが入ったことでずっとすれ違いのままです。
最期にお互いの気持ちや考えていることが伝わったことがせめてもの救いですね。
鬼滅の刃 風の道しるべ 作者:吾峠呼世晴 矢島綾 出版社:集英社 |
鬼滅の刃 単行本21巻 作者:吾峠呼世晴 出版社:集英社 |